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2024.03.06

異業種からパティシエの道に。固定概念にとらわれない自由な発想のルーツを探る~「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」 岩柳麻子~

オーナーシェフパティシエール
岩柳 麻子さん
専門学校で染織を学んだのち、飲食店でのアルバイトをきっかけに料理の道に進む。2005年に「pâtisserie de bon coeur(パティスリィ ドゥ・ボン・クーフゥ)」でシェフパティシエールを務めた後、2015年に独立、東京・等々力に「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI(パティスリィ アサコ イワヤナギ)」をオープンさせる。
運営サイトはこちら

「美しい」「宝石のような」

スイーツのビジュアルを表現する際によく聞くことばですが、東京・等々力にある「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」では、それ以上の表現を求めたくなるパフェ(パルフェビジュー®)に、出会えます。
ここのオーナーシェフパティシエールを務める岩柳シェフは、製菓学校でお菓子作りを学んだのではなく、元々は染織家になるために勉強されていたそうです。

お菓子の道に進んだ経緯と、自身の染織のスキルを活かした独自のお菓子作りについて、岩柳シェフにお話を聞きました。

異業種からの転身

どのような経緯で、お菓子の道に進まれたのでしょうか?

岩柳さん
「元々は染織家になりたくて桑沢デザイン研究所という学校のドレスデザイン研究科で染織の勉強をしていました。ですが、私がやりたかった染織を職業として食べていくのはむずかしいんじゃないかという不安な思いもありました。当時、学校の課題に必要な制作費を捻出するために総菜屋やアイリッシュ料理のパブでアルバイトをしていたんですが、それが思った以上に楽しくてはまってしまい、料理の道も面白いな、とふと思ったのが最初のきっかけです。
卒業後は、友人たちと共同で展示会を開いていたんですが、そこで自分で作ったお菓子を出していました。そこから徐々にお菓子を作るスタッフを探しているというお声掛けや、新しくオープンするカフェメニューの監修など、飲食関係のお仕事が徐々に入るようになりました。料理教室のアシスタントやお菓子の撮影のアシスタントをしたこともあります。そうしているうちに気付けばお菓子の道に進んでいた、という感じです」


製菓学校からの道、異業種から転身の道

岩柳さんが思う、製菓学校からの道と異業種からの転身の道のそれぞれの良い点を教えてください

岩柳さん
「製菓や調理の学校に通った方は、包丁の使い方やパレットやダスターの使い方、そういう仕事の美しさや衛生管理が徹底されているな、と感じます。あとは、いまの流行りに関係なく、クラシックなお菓子の作り方の基本を学んでいる点ですね。わたしは個別でレッスンを受けたり、有名パティシエの講習会に行ったりして、ほぼ独学でお菓子作りを学びました。なので和菓子職人さんに作り方を教えてもらったり、肉の処理を料理人に教えてもらったり、教科書をもらってわたし自身で作ったりしています。お菓子の基本を学生時代に学んでいるのは、社会人になってパティシエとして働く上でも大きな利点だと思います。

転身した身として感じる良さは、わたしは異業種からいまのお仕事に就いたので、素材に対する心理的な境界線がないかもしれません。
例えば、クラシックなお菓子を作る方は和の素材は和菓子でしか使わない、というのがあるかもしれません。今のお店では、こういうところに和の素材を入れたいな、となると手作りの求肥や練りきりの作り方を、和菓子出身のスタッフに教えてもらいながら作って積極的に取り入れています。これとこれが合う、っていう組み合わせを頑なに決めないようにしています」

ASAKO IWAYANAGIのケーキ

求肥に包まれたスペシャリテの「クレア」 (写真左)素材への先入観にとらわれない岩柳さんだからこそ生まれた作品

人気商品パルフェビジュー®のインスピレーションは?

岩柳さん
「お店のコンセプトは、旬の素材を必ず使うということです。季節を感じられる旬の果物からアイデアを広げてレシピを考えます。メインの果物があって、それに合うパーツを製造し、去年はあれとこれを組み合わせたから、今年はこうしよう、と考えながら組み立てていきます。旬の食材を使って、『そのときに作れる一番おいしいもの』を出すことを常に意識しています」

パルフェビジュー®

昨年12月提供のパルフェビジュー®︎ ドゥ ノエル。 甘酸っぱい苺ソルベと、ピスタチオジェラートの組み合わせがなんともクリスマスらしい色合い。トップには 甘酸っぱいさくさくとした食感を楽しめるフランボワーズシュガーパイやクリスマスツリーに見立てたピスタチオクリームが飾られています。 食べ進めると、下部には苺とピンクグレープフルーツのバルサミコマリネやレモンジュレ。クリスマスシーズンのワクワク感を盛り上げるパーツで仕上げたスペシャルな一品

色の組み合わせがとても美しくて、あとグラスの中にあえて空間を作っているのがとても特徴的だと感じました。このような色彩や空間のバランス感覚も染織を勉強されていたときの技術が生かされているんでしょうか?

岩柳さん
「染織家を目指していたとき、学校の課題で1日1枚の絵を6時間くらい描き続けて仕上げていました。

例えば、さんまと花というテーマで、まったく異なる被写体をどのように違和感なく1枚の絵に仕上げるかというテーマがありました。
自分なりに考えたイメージに沿って色を足して描く 。そこからより被写体にリアルさや動きをプラスするために絵に立体感や余白(空間)をプラスして構成していきます。

もともと私は、立体を表現するのが苦手で、どうやったら上手くなるんだろうとずっと考えながらやっていました。その時に、先生から『よくものを見ろ』と言われたのを覚えています。『そのものがもつ特徴をより強く描きだし、表現することが大切だ』と。その感覚がいまのパルフェビジュー®︎の構成を考える原点になっていると思います」


お菓子の道へ転身を考えている方へメッセージ

岩柳さん
「いちばん大切なのは、腐らずがんばることです。やっぱり、製菓学校でお菓子作りを学んだ人より、学んでいない人は時間がかかります。わたしもすごく時間がかかりました。ただ、異業種からどうしてもお菓子の仕事をやりたかったのだから、苦労することも必要です。覚悟を決めて、やるしかありません。あとは、今までにやってきた仕事の強みがあるはずです。それを自分でしっかり強みに変える力があると認識することでしょうか。
今のお店のスタッフにも、元々料理をしていたけど、デザートを学びたいという理由で転職してきた子や、元美容師で、美味しいものが好きという理由でこの世界に入って、今はうちのお店でパン部門を任せるほどになっている子もいます。やり続ければ、結果はついてくると思います」

取材を終えて

お忙しい仕込みの時間帯にもかかわらず、取材に対してしっかりと自身の考えを話してくださった岩柳シェフ。
「わたしはお菓子作りに関してエリートではないから」と取材中何度かご自身のことをそのようにおっしゃっていましたが、努力を怠らない姿勢と自身が持つ前職のスキルを最大限に生かした結果、いまの人気が確立されているんだと感じました。

 

●取材協力
PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI(パティスリィ アサコ イワヤナギ)

東京都世田谷区等々力4丁目4−5
TEL:03-6432-3878
営業時間:11:00~18:00
定休日:月、火曜日
※パフェは要予約。公式インスタグラムまたはHPをご確認ください。
HP:サイトはこちらから
インスタグラム:インスタグラムはこちらから

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Writer
chefno編集部
エディター兼ライター シオリ
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chefno編集部
エディター兼ライター シオリ
飲食店勤務を経て、現在は輸入商社で働くワイン狂。
「レモン」と名の付くメニューと出会ったらオーダー必須。
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