ARTICLE
2023.11.14

開業を目指すパン職人・パティシエに読んでほしい 開業直前パティシエールが先輩パティシエールに本音で質問しました!【後編】

chefno開業座談会・後編

パン職人、パティシエ の皆さんの中には、「自分のお店を持ちたい!」という夢をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

近年、職人としての働き方にもさまざまな形が見受けられるようになってきました。オンラインでのお菓子教室、フリーランスパティシエとしてメニュー開発や製造指導、店舗を持たず、独自のECサイトとイベント出店のみでの菓子販売など、自身の生活スタイルに沿った働き方を選択しやすい空気感も生まれてきています。

そんななか、なぜ「独立開業」なのか?
「自分のお菓子が作りたい」「お菓子はもちろん、お店の雰囲気、運営スタイルも自分で決めたい」「子育てをしながらも職人であり続けたい」「人に指示をされるのが基本的に苦手」さまざまな想いを胸に開業に向けて動き出しているパティシエール3名と独立開業9年目のオーナーパティシエールの座談会のはじまりです!

 

<座談会に参加いただいた方>

加藤絵梨果(かとうえりか)さん

岩手県出身。製菓専門学校卒業後、神戸の『パティスリー リッチフィールド』で18年間勤務。うち7年間を製造責任者、5年間を支店長として勤務。
2024年4月に神戸市中央区で『Pâtisserie CERNE』(パティスリーセルン)を開業予定。“CERNE”とはフランス語で年輪を意味する。お客様とのご縁を大切にし、“年輪のようにお客様の幸せの輪が広がっていきますように”との思いを店名に込めた。

花本奈美 (はなもとなみ)さん

鳥取県出身。製菓専門学校卒業後、神戸の『パティスリー リッチフィールド』で8年間勤務。在籍中に挑戦したパティシエールのためのコンクール(ボワロン杯)で2012年2位、2015年3位入賞。
その後、奈良県の『パティスリーネイロ』のオープニングスタッフとなり、同店のスーシェフとして2年間勤務後、現在は実家のパティスリー『ボヌール洋菓子店』で製造スタッフとして従事。結婚、出産を経て2023年12月に米子市で『菓子 ヒナゲシ』を開業予定。

公式インスタグラム:ヒナゲシ公式インスタグラム

谷本久実(たにもとくみ)さん

和歌山県出身。製菓専門学校を卒業後、神戸の『パティスリー リッチフィールド』で9年間勤務。その後、フランス(ヴェルサイユ)の『Au chant du coq』(オ・シャン・デュ・コック)で1年勤務後、東京のフレンチレストラン『le sputnik』 (ル・スプートニク)でシェフパティシエとして3年間勤務。2024年1月に地元の紀の川市で『KII』(キイ)を開業予定。

公式インスタグラム:KII公式インスタグラム

前田こず枝さん(まえだこずえ)

2015年11月にオープンした『Le Bonbon Et Chocolat』のオーナーパティシエール兼ショコラティエール。大阪のパティスリー『五感』『プチプランス』を始め関西の数軒のお店でトータル約8年間パティシエールとして勤務。フランス(リヨン、アルザス)のパティスリー・ショコラトリーでの勤務経験から、ヨーロッパのように日本でも気軽にチョコレートを楽しんでいただきたいとの想いで日々商品開発中。2019年より単一品種のカカオ豆から製品に仕上げる、ビーントゥバー、ビーントゥボンボンシリーズの製造を開始。2020年より東京で開催されるサロンドショコラに4年連続出店中。

 

後編テーマ: 開業後に進化する! やりたいことの優先順位を決めよう

花本さん

自分のお店では、自分の好きなお菓子を販売したいと思っていますが、商品構成はどのようにされていますか?

前田さん

オープン当初はボンボンショコラのラインナップは6種類でしたが、今は24種類です。フランスやベルギーを訪れた時に立ち寄ったチョコレート屋さんが私の理想でした。チョコレートがずらりと並んでいて、1粒からでも購入できるお店です。
ただ、日本の長浜で開業するにあたり、チョコレートだけだと商売としては難しいと思ったので、初めからケーキも数種類は販売しています。ケーキを目当てに来たお客様が、ついでにチョコレートを買ってくれやすいように、オープン当初から1粒から選べるようにしています。

加藤さん

これすごく美味しい!(写真右下:ディロンを食べて)

ボンボンショコラ

前田さん

それはお酒が結構入っているんですけどお店の一番人気です。この赤いケーキは子どもに大人気です。赤くてかわいいからですかね、ミルクチョコレートで優しい味わいです。うちの子も大好きでいつもペロリと食べてしまいます。

花本さん

自分の好きなもの、作りたいものがお客様に受け入れられるかどうか、不安はなかったですか?

前田さん

このお店は、私自身チョコレートが大好きで、その好きなチョコレートを作りたいから始めた、言わば趣味のようなお店なんですよね。でもそれって、開業する方なら皆さんそういう部分があると思うんです。
もちろん不安な気持ちや、初めはそんなに売れないだろうと思っていたところもありますが、自分の信念を曲げずに続けていたら、ありがたいことにお客様にも受け入れられたという感じです。

谷本さん

商品の開発はどのようにして進められましたか?

前田さん

フランスでの修業から帰国後、滋賀県のパティスリーで3年間シェフ・パティシエールとして働いていた頃に、商品開発もやらせていただいていたので、自分の店でも出せるようなお菓子を考えながら試作を繰り返していました。自分の開発したボンボンショコラを販売して、お客様の反応を直に感じられるという経験を自分のお店を持つ前にできたことは貴重でした。オーナーにはとても感謝しています。

加藤さん

私も今の職場で、仕事が終わってからお菓子を試作していますが、自然と自分のお店で提供することもイメージしながら開発しています。もちろん現段階では勤めているお店のカラーに沿ったものなので、ラインナップにあっても違和感がないように意識しています。

花本さん

今は基本的に自店の準備を中心に進めているので、お店の定休日に実家の洋菓子店の厨房を借りて試作しています。並行して、できる限り地域のマルシェ等にも出店しています。少しでも自分のお店を事前に知ってもらえるように活動しています。
前田さんのお店ではインターネットでの販売にも力を入れられているのですか?

前田さん

そうですね、開店2年目くらいから「カラーミーショップ」というネットショップ作成サービスを利用してオンラインショップを運営しています。
ホームページのリニューアル時に、お客様が買い物をしやすくなるようにオンラインショップも作り直しました。
オンラインショップがあることで日頃から発送業務にも慣れ、梱包資材も常にストックがある状態なのですが、それは店頭販売にも活かされています。
ここ数年、9月になっても暑い日が続いていて、チョコレートの持ち帰りに不安を感じるお客様もいらっしゃるので、その際は、発送対応ができることをご提案することもあります。
それと、次のバレンタインで9年目になるのですが、4年前から新宿のサロン・デュ・ショコラにも出店しているんです。出店後はそれまで以上に、インターネットで全国から注文が入るようになりました。

chefno開業座談会・後編

▲実際のオンラインショップ画面を見ながら。参加者のみなさんの真剣な眼差しが印象的でした

加藤さん

サロン・デュ・ショコラに出店されているんですね。きっかけは何だったのですか?

前田さん

チョコレート屋をしているんだからぜひ出てみたいなと思って、実は自分からお店や商品のことを説明する手紙を出したんです。手紙を読まれたバイヤーさんから連絡が来て、とんとん拍子に出店が決まりました。
サロン・デュ・ショコラへの出店直後は、お客様の反応も予想以上で驚きました。毎年楽しみにしていただいているお客様も増えてきて、新商品への期待も高まっていることは、私にも良いプレッシャーになっています。

加藤さん

すごいですね。お店や商品そのものの魅力はもちろん大事ですが、ご自身で百貨店へ売り込む姿勢というか、行動力は私も見習いたいです。

前田さん

皆さんはオンラインショップも運営される予定ですか?

花本さん

興味はあるのですが、オンラインで販売するとなると、店頭での販売と違って商品をどれくらい準備しておいたら良いのか、お店を営業しながら無理なく発送するにはどうしたら良いのかなど、まだ具体的に
想像できなくて。

谷本さん

私は今、「STORES(ストアーズ)」というネットショップサービスの利用を検討しています。登録料が無料で、ネットショップのページも写真やテキストを入れるだけで比較的簡単に作れそうだと思うのですが、決済手数料※が5%かかってしまうのでどうしようかなと。
※決済手数料はお客様が買い物をした時に発生するもので、お店側がクレジット会社や決済会社に支払うものです。お客様が1000円のお買い物をしたら、お店が支払う手数料は50円になります。

前田さん

ネットショップ作成サービスも月額の基本料金や決済手数料がさまざまなので、デザインや使いやすさなどを確認しながら自分に合ったサービスを選択するのが大事ですね。
そして何よりもまずは、自分がやりたいことの優先順位を決めることが大事だと思います。通販の優先順位が高いなら初めから導入するべきですが、そうでもないのなら開業後、徐々に準備をすれば良いと思いますよ。

chefno開業座談会・後編

▲新商品をオンラインショップにアップする方法を解説中。新商品を追加する際には商品画像も、前田さんが自ら撮影

谷本さん

機械はオープン時にすべて揃えた方がいいですか?

前田さん

お金がない時は初めからあれもこれも買わない方がいいと私は考えていて、まずは最低限の規模で始めるために機械はかなり精査して、すべて中古で揃えました。
もちろん開業前に必要な機械をすべて揃えて、予想通りの売り上げを積み重ねていけるのが理想ですが、実際にはなかなか難しいですよね。
オープン当初から、ゆくゆくはエンローバーを購入したいと考えていましたが、時期については決めていませんでした。
オープン後3年間はすべてのボンボンショコラを私が手作業でコーティングしていましたが、サロン・デュ・ショコラに出店することが決まって、生産量が桁違いに増えることになり、エンローバーを購入しました。手掛けで作っていた頃は一日で最高800粒位コーティングしていて、チョコフォーク2本は折りましたよ。
軌道に乗った時に機械を追加購入することを見越して、動力と機械の搬入経路だけは事前に確認しておくことをおすすめします。

花本さん

エンローバー以外で開業後に追加購入された機械はありますか?

前田さん

リバースシーターです。売れ筋商品で青い缶に入ったオレンジサブレがあるのですが、手で伸ばして仕込んでいた時は厚みが微妙に揃わなかったんです。缶に詰める時にも手間がかかって大変でしたが、導入後はとても作業がスムーズになりました。
あとは、カカオ豆から自分でチョコレートを作るためのコンチング用の機械ですね。

ボンボンショコラのオレンジサブレ

▲ぴったりと隙間なく詰められた缶入りのオレンジサブレ

加藤さん

中古の機械だと、メンテナンス面で不安がありませんか? 新品で購入すれば業者さんがサポートしてくれると思うのですが。

前田さん

壊れたらその時は買い替えようと思っています。
ただ、災害などが原因で機械が壊れた時に買い替えの資金がないと困るので、機材全般にかけられる保険に入っています。年間の保険料が約5万円で、最大700万円まで補償してもらえるので安心ですよ。
保険と言えば、百貨店に出店する際にはPL保険*に入ってくださいと言われました。
例えば出店時に販売した商品に問題があってお客様への賠償が発生した場合に、保険会社が負担してくれるというものです。これは百貨店出店時のみに適用するというものではなく、通常の営業時でも適用されます。

※【PL保険】
PL保険は、製造業者などが製造または販売した製品などが原因で、他人にけがをさせた場合などに、事業者が法律上の損害賠償責任を負担する場合の損害を補償する保険です。(日本損害保険協会HPより)

最低ロット、置き場所、意外とあなどれない包材問題

谷本さん

サブレ缶などとてもかわいいですが、オリジナルの包材は最初から揃えられたのですか?

前田さん

いいえ、開業当初は市販の袋を1000枚単位で購入して使っていました。
店名の入った袋になると最低発注ロットは10倍の1万枚なんです。そうなると、200枚入りの段ボール箱がいちどに50箱も届くんですよ。今は2階で保管していますが、運ぶだけでも重労働です。

加藤さん

オリジナルの袋の製作を検討していましたが、具体的な数字を聞くと現実的ではないですね。

前田さん

市販品から始めて、お金に余裕ができてから段階的に進める方がいいかもしれません。製造ロットが多いほど単価は抑えられますが、スペースの問題もあります。
また、デザインをプロの方に依頼するとデザイン料もかかりますよね。保冷バッグやギフト用の箱、サブレ用の缶など、すべてオリジナルで作ると本当に場所もお金も必要になってきます。
オリジナル包材は作った会社さんで保管してもらえるケースもありますが、必要数を送ってもらう際にも送料がかかるので。

chefno開業座談会・後編

▲店舗2階には包材が所狭しと保管されている

加藤さん

お店の袋代は有料にしていますか?

前田さん

基本的に無料です。ボンボンショコラの詰め合わせ専用のボックスと専用紙袋は価格に入れています。
些細なことかもしれませんが、お客様に毎回、「袋は有料ですが、どうされますか?」とお尋ねしなくて良い点は効率的ですよ。

谷本さん

ケーキを1つ購入された場合にかかる包材(箱、スペーサー、袋、保冷剤)にかかる金額を考えると、価格設定がとても難しいなと感じています。

前田さん

勤めていた職場の価格設定なども参考にして決められるとは思いますが、大きなお店と個人店では仕入れる量もかなり変わってきますし、参考程度にしかならないと思います。オーナーになるということは、お金にまつわることをすべて決断していくということなので、よくよく考えて決める必要があります。
うちもオープンしてから2度、価格改定を行いました。

加藤さん

オープンフェアみたいなことはされましたか?

前田さん

とくに何もしませんでした。チラシなども作らなかったので、オープン1年目はそんなに忙しくなかったですが、ここは観光地エリアなので、お店の工事をしている時から「何のお店ができるんだろう?」と思われていたのか、オープン初日は多くの方が来てくれました。
ただ、毎年11月初めに周年祭だけは欠かさずやっています。チョコレートとマカロンを20%OFFで販売するんですが、いつも大勢の方が来てくださいます。周年祭の11月1~3日は、サロン・デュ・ショコラ用に考えた新商品を発売開始するのにも絶好のタイミングになっています。

谷本さん

年間を通して売り上げの良い時期はいつになりますか?

前田さん

圧倒的に2月ですね。バレンタイン時期がやはり一番売れます。
12月はクリスマスケーキの要望があるので作りますが、できる範囲内でしか予約は受けません。年間を通して売り上げを確保する試みとして、他のお店でやっていて良いなと思ったものは、『毎月何日は○○の日』のような企画です。普段売られていないものを買えるとなると、集客に繋がる気がしました。

加藤さん

いろいろと考えることが多いですね。

前田さん

最初から全部やろうと思わずに、優先順位を決めて取り組めばいいと思いますよ。開店後に初めてわかることも多いですし。せっかく自分の作りたいものを作るために開業するわけですから、自分の時間を大切にすることも忘れないでくださいね。

(座談会を終えて)
山登りが趣味で、山に赴くと疲れが取れると話されていた前田シェフ。来年4月に移転する新店で、伊吹山の大自然に囲まれてパワーを充電しながら働かれているシェフに必ず会いに行こうねと言葉を交わす参加者のみなさんの笑顔が印象的でした。
夢を形にすることに向けて全力で進まれている3人をchefnoはこれからも応援していきます!

chefno開業座談会・後編

●取材協力

ボンボンショコラ


le bonbon et chocolat(ボンボンショコラ)
住所:滋賀県長浜市元浜町18-22
営業時間:11:00~17:00
定休日:水・木
公式ホームページ:https://le-bonbon-et-chocolat.com/
公式インスタグラム:www.instagram.com/le_bonbon_et_chocolat/

 

この記事をシェアする
Writer
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
製菓業界に足を踏み入れて早20数年。読者目線の企画運営が目標です! 食べることと旅行が大好きな1児の母。サンマルク、カイザーゼンメルが大好きです♡
1
味覚と味蕾
ARTICLE
2023.06.13
教えて!専門家の皆さん!!美味しいものを作るために知っておくべき「味覚」について
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
2
パティスリーKII
ARTICLE
2024.03.19
和歌山・紀の川市から。ここでしか手に入らない素材を使ったお菓子づくりを楽しむパティスリー「KII(キイ)」谷本シェフの思考
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
3
ARTICLE
2024.01.09
インタビュー 老舗和菓子屋からパン屋へ パティシエ出身シェフが作る美しいパン ル・シュプレーム 渡辺 和宏
ベーカリーパートナー編集部
4
ARTICLE
2022.03.15
フランスにいったら役に立つ!かんたんフランス語講座 第11回『味の感想』
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
無料会員を募集しています!
chefno®︎では、会員登録することによって、会員限定のコンテンツを視聴したり、 製パン・製菓のセミナー(無料・有料開催)に参加することができます。 ほかにもいろんな特典を考えております。みなさまの登録をおまちしています!