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2023.10.27

フランスからつづる!ブーランジェ通信 by成澤 芽衣 Vol.48「フランスでパン職人、オーナーシェフになることの意味」

ブーランジュリーコルネイユ外観

こんにちは。久々のレポート配信です!

今回は、フランスでのブーランジュリー開業や経営についてお伝えします。

私が4年間勤務していたブーランジュリーのオーナー、リシャール・リュアン氏のお店を継承し、2023年3月から正式に「ブーランジュリーコルネイユ」の経営者になりました。それから早いもので7ゕ月が経ち、この期間をあらためて思い出すと「怒涛の7ゕ月」という言葉が最も相応しく感じます。

私がお店を継承して変わったことといえば、クレジットカードの機械を導入したこと、12種類程の新商品を加えたこと、より美味しくなるように数種類のパンのルセットを変更したことくらいで、何かを大きく変えたわけではありません。

ブーランジュリーコルネイユのバゲット

▲写真一番上が、売れ筋であるバゲット・トラデイションの「Baguette Corneille(バゲット・コルネイユ)

バゲット・コルネイユで販売しているパン

▲店で販売しているヴィエノワズリー。メロンパンはフランス人にも人気です

バゲット・コルネイユで販売しているパン

▲一部の商品はルセットを見直し、新商品も増えました

ただ、自身の「立場」は劇的に変わりました。オーナーになる前は、期間は短いですがリュアン氏の元でシェフとして勤務していました。ですが、「シェフ」と「オーナーシェフ」では文字だけを見ると、カタカナ4文字が追加された程度に見えますが、責任や実務はまったく違うことを、今とても実感しています。

オーナーであれば、どんなに小さなことでも、判断や責任は自分に掛かってきますし、そのすべてにフランス語で対応する必要があります。「フランスにいるのだから、そんなの当たり前だろう」と思われる方もいると思いますが、その当たり前がとても難しいのです。

たとえば、私よりもフランス語が達者なフランス人の若いスタッフから質問があったとしても、相手がしっかり理解できるようにフランス語で説明する必要があります。その説明が伝わっていなければ、店で出すパンのクオリティに影響する可能性もあります。

私は、30年間 (ワーキングホリデーでフランスで1年間働いた期間を除く)日本で暮らしていました。20歳で社会人になってから10年間は日本で働いていたこともあり、どうしても「日本の考え方」が少なからず出てしまいます。フランスで生まれフランスの社会で育ってきたスタッフとのコミュニケーションには、時に壁を感じることもあります。ただ、今私がいるのはフランスです。私は日本人でありますが、フランスのルール(考え方)になるべく合わせてスタッフと接するようにしています。

パン職人の成澤芽衣さん

▲このみんなで毎日頑張ってパンを作っています。みんな、いつもありがとう!

「On s’adapte. (オン サダプト)」というフランス語のフレーズがあります。日本語で言うところの「臨機応変」に近いニュアンスです。スタッフ、お客様、業者さんとの間で、腑に落ちないできごともたくさんあります。そんな中で、自分にストレスが掛からない範囲で「On s’adapte 」という言葉を頭の中で唱えています。

日本で働いていた頃は、すべてにルールがあり、みんなそのルールに従っていれば物事がスムーズに進んでいた印象があります。ですが、フランスでは個々の考えや主張が強く、時にはルールを覆すようなことを言ってくることもあります。怖気付く気持ちをおさえ、「私がオーナーなんだ」と、堂々とした態度と「On s’adapte 」の言葉を頭で唱え、冷静に対応して何とか乗り越えています。

そして、これはオーナーだからこそ経験するパンの製造以外の仕事。商品の品質管理、新商品開発、果物などの材料調達、従業員指導、売り上げ勘定、銀行入金、発注業務、銀行や会計士その他アポイント、業者さん対応、お客様対応(クレーム対応なども含む)、と思い当たることを書き出しただけでもたくさんありますね。たくさん業務はありますが、今のところ自然に対応できている自分がいますが、まだまだ新米オーナーで、完璧には程遠いのが現実です(泣)。

ブーランジュリーコルネイユのクロワッサン

▲まだオープンして半年ですがリピート客も増えました。写真は、先日お客様からご依頼いただいたクロワッサン200個!せっせと焼きました

この7ゕ月を振り返るだけでも、これだけのエピソードが出てきます。もし、フランスでオーナーになりたいと考えている方がいらっしゃいましたら、オーナー経験が短い私がお伝えできることは、「続けること、負けないこと、諦めないこと、周りを巻き込むこと」でしょうか。もちろんこれは、オーナーになってからもそうですし、オーナーになる前でも言えることです。

以前のレポートで書きましたが、フランスでの物件探しは非常に時間を要します。私の場合は、本格的に探し始めてから1年半掛かりました。あとはサインするだけで契約が決まりそうだった物件を、他のパティシエさんに横からサインされてしまうできごともありました。そんな苦悩の日々の中「母国語ですべてが解決するし、日本に帰ってパン屋をしようかな」とか、「もうこのまま従業員でいようかな」など、さまざまな言い訳を考えて、自分の夢から逃げようとしてしまうこともありました。落ち込むできごとも沢山ありましたし、とにかくスムーズにはいかなかったと思います。


でも、私は諦めませんでした。意地でもこのパンの国・フランスで自分のブーランジュリーを開業したかったんです。しかしながらここまで辿り着けたのは、自分の精神論なんかだけではなく「周りの協力」があったからこそです。

フランス人の友人達は、自分の事のように私の開業について親身に話を聞いてくれたり 、なにかあったらすぐに連絡くれたりしました。なかでも、パン職人で仲のいいフランス人の友人とは常に情報交換をし、一緒に物件を見に行ったり、アドバイスをもらったりしていました。前オーナーのリュアン氏、友人、それから同じ日本人女性でアンジェで自身のお店(ATELIER LETANDUERE)を開業されて6年になる大先輩の大西かおりシェフ、いつも協力してくれるパン職人の夫。みんなを巻き込み、協力やアドバイスもらえていなかったら、今の私はなかったと思います。

開業してからまだ半年強なので偉そうなことは何も言えないしできませんが、味方になってくれている周りの方々の期待は絶対に裏切らないよう、感謝の気持ちと、それを態度で示すことをずっと忘れずに行きたいです。

さいごに、オーナーシェフになったとは言え、やはり1日の業務の大半は「パン作り」です。いろいろな課題はあるものの、パンを作ることが好きでこの職業を続けてきました。地元(フランス人)のお客様の毎日の食卓を彩るパンを提供させて貰える喜びを噛み締めて、日々誠実にパン作りと向き合っています。ここフランスでパン作りができることは、何よりも幸せなことです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

実は今回のこの記事で私のフランス通信は最後になります。今までお付き合いいただき本当にありがとうございました。

日本に一時帰国した際や、直接メッセージなどで「フランス通信読んだよ!とても良かった」「楽しみにしているよ」などと嬉しい言葉をいただける機会があり、それがどれだけ励みになったことか。自分のフランスでのパン職人としての日常を通して、みなさまに興味を持ってもらい、想いを共有できたことは私の宝になり、これからの糧になります。本当にありがとうございました。

今後は、とっても短い文章になりますが、自身と、ブーランジュリーコルネイユのinstagram、X(旧Twitter)で、お店の様子や、日々の様子などを発信して行きたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

フランスと日本では物理的に距離がありますので、あまり簡単に「ぜひお越しください!」とは言えませんが、フランスに来られる機会がありましたら、ぜひアンジェの店「ブーランジュリー コルネイユ」にもお越しいただければ嬉しいです。アンジェは、「自然」と「都市」が良い具合で共存しているとても素敵な街ですよ。

アンジェの街並み

▲アンジェの街並み。とても素敵な街で気に入っています

またいつの日か、みなさまの目に留めていたけることを夢見て、ここフランス・アンジェで日々を真っ直ぐ懸命に過ごして行きたいと思います。

今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

ブーランジュリーコルネイユ
成澤芽衣
Boulangerie Corneille
Mei NARUSAWA

インスタグラム:https://www.instagram.com/meinarusawa/?r=nametag
インスタグラム(お店):https://www.instagram.com/boulangeriecorneille/
X:https://twitter.com/meinarusawa

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成澤 芽衣
成澤 芽衣
運営サイトはこちら
2017年 フランス全国バゲットトラディションコンクール 優勝。 現在はフランスでフリーランスのパン職人として活動する傍ら、日本でのイベントや、東京にあるベーカリーでパンの監修をさせていただいております。 フランスから私なりの視点で、パンのこと、普段のことなどなど。 生のフランス情報をお贈りします。
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