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2023.05.18

美術のセンスを生かしてローコストでパン屋を開業 ~愛知県 名古屋市 トレマタンブーランジェリー 瀧あゆみ~

トレマタンブーランジェリー オーナー 瀧あゆみさん
トレマタンブーランジェリー オーナー 瀧あゆみさん
トレマタンブーランジェリー オーナーシェフ
瀧 あゆみさん
高校の美術科で油絵を専攻。そこから美術の魅力にはまる。難関の美術大学進学を目指すがなかなか叶わず浪人生活へ。そんななか、手に職を持ち何かを造り上げて行くことが美術の世界と似ていることから26歳でパン職人の道に。約5年半名古屋市内のブーランジュリーで修行したのちに2018年4月に自店をオープン。
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こんにちは、chefno編集部です。

「いつかは独立開業」。そんな夢を持っている職人の方もいると思います。とはいえ、独立開業するには様々なステップを踏む必要があります。今回は、元々学生時代に美術を専攻し、そのスキルやネットワークを生かし、パン屋開業資金としては比較的ローコストである1300万円ほどで開業された「トレマタンブーランジェリー」の瀧 あゆみさんに、お店の開業から運営についてお話をお伺いしました。

アトリエのような素敵な外観。お店に入れば香り高いパンがお出迎え

今回の取材先であるトレマタンブーランジェリーさんは、人気店も多くある名古屋市名東区一社(いっしゃ)にあります。お店の周辺は閑静な住宅がならび、楽しそうに遊ぶ子どもたちの声が聞こえる「西一社中央公園」のすぐそばにあることから、取材中もお店には子供連れのお母さんが多く来店していました。お店の外観に目を向けると、半透明のトタンを磨りガラスのように使い、麦の穂のようにも見える格子がおしゃれで、美術畑出身の瀧さんのセンスがうかがえます。

トレマタンブーランジェリー外観

▲グレーで統一されたお店の外観

店内に一歩入れば、厨房との壁がなくパンの焼けるいい香りが店内に。シンプルな対面式の陳列棚には個性的なパンがたくさん並んでいます。

トレマタンブーランジェリーの店内

▲陳列棚横から。左奥にはオーブンが見え、売り場と厨房が近いのが分かります

オーナーの瀧さんに「お店の看板商品は?」とお聞きすると「バゲットですね」とすぐに回答がありました。工夫を凝らしたパンが並ぶなか「あえてシンプルなバゲット?」と思ってしまった筆者ですが、何度も材料や製法を見直し、理想のバゲットになるまで改良されたとのこと。瀧さんにとって思い出深い商品で、お店の運営と共に歩んできた1品と言えるでしょう。

トレマタンブーランジェリーのバゲット

▲瀧さんの思い出がつまったバゲット

センスが光るお店づくりとパン職人としての人生を楽しまれている瀧さんですが、パン職人の道を選択し開業するまでは、紆余曲折(うよきょくせつ)あったそうです。

美術の世界で生きていく。強い志を持って送った学生時代から一転パン職人の道を選択

瀧さんは、大学受験で美術大学への進学を目指していました。ただ、その大学は難関大学ということもありなかなか進学ができずもやもやしていた時期を過ごされます。そんな時にあることがきっかけでパン職人の道を選択することになったそうです。

美術一筋の学生時代にパンに興味をもつ機会があったのですか?

浪人をしていた頃に、息抜きも兼ねてパン作りや料理をしていました。自分で食べることが目的でしたが、たまに自分が作ったパンや料理を友達にふるまうこともしていました。周りにも好評で、ある時には、知り合いからの依頼でパンや料理をパーティで提供することもありました。私が作ったパンや料理を食べた方々が笑顔で「美味しい」というお言葉をかけてくださることもあり、「趣味ではなく自分の作ったものをもっと色々な人に食べてもらいたい」という気持ちが芽生え、それからパン職人という職業を意識し始めました。

美術に関わる仕事をしたいという大きな目標があるなか、パン職人の道に軌道修正したのは?

トレマタンブーランジェリー オーナー 瀧あゆみさん
美術大学の受験に何度かチャレンジしていたのですが、気づけば私も20歳半ばに近づいており「そろそろ将来のことを考えないといけないな」と感じていました。その当時は、浪人しながらアルバイトで美術作品を売ったり額装(額縁で美術作品を装飾すること)をしたりしていましたが、「楽しんで仕事ができているかな?」と思っていたんです。ですが「美術に関わる仕事を辞めて、受験も諦めたら私に何ができる?」と思った時に、パンや料理をふるまった時に皆さんが見せてくださった「笑顔」と「美味しい」という言葉を思い出したんです。美術が好きで何かを造形することと、パン生地を捏ねて一つのパンを作りあげること。どこか似ていて私のなかでマッチしたものがありました。私が歩もうとしていた美術の道とは違いますが、自分の手で何かを作ることに変わりがないのであれば、パン職人になって将来は店を持ちたいと思い、パン職人の道を歩むことに決めたんです。

パン職人の道を歩むと決意。瀧さんの開業ストーリーがスタートします

美術一筋で過ごしてきた学生時代。厳格な家庭に育ち、美術の道を歩むことに対してご両親は反対だったそうです。そんななか、突然パン職人の道を歩むことをご両親に伝えると、もちろん反対意見が。ご両親への説得を続け、いざパン職人として修行を開始。修行をしながら、徐々に開業の準備が始まりました。ここからは、瀧さんに開業に関する質問をどんどんしていきます。いざ開業したいと思った時に参考になること間違いなし!

修行をしながら開業の準備ができるの?

正直できなかったです。
物件探しやお店のプランをまとめていくとなると、休日を活用しても時間が全然足りませんでした。結局お店を辞めて、約2年間は融通の利くアルバイトをしながら開業準備に専念しました。

開業で一番苦労したことは?

ずばり物件探しです!
1件目、2件目の物件は契約も交わしていたのですが、どちらも大家さんの諸事情でNGになってしまったんです。既にお金を借りる準備もしていたので、まさかのできごとでした。それから半年後に見つけた物件も素敵で、準備を進めていると、こちらは測量でNG。しかもその後に見つけたもう1件の物件も同じように測量でNGでした。そして5件目に何とか見つけたのが現在の物件です。けっきょく物件探しには1年以上かかりましたね。実は、現在の物件も、建物の取り壊しが決まり、秋ごろに別の場所でリニューアルオープン予定なんです。開業後も物件で苦労するとは…。

トレマタンブーランジェリー オーナー 瀧あゆみさん

開業資金1300万は、パン屋開業としては安いの?高いの?

私は妥当な値段だと思いますが、先輩方に話を聞く限りではパン屋さんの開業資金としては安いほうみたいです。

開業資金の内訳は?

製造機械の購入と、給排水などの設備工事で資金の2/3を使いました。残りは店の外装・内装に使いましたが、なかなかコストが合わず、設計士さんに相談してコストが下げられる方法を提案していただきました。

ローコストを実現するためにしたことは?


色々としましたが、何個か例を挙げてご紹介します。

  • 高額な製造機械は新品ではなく中古品も活用
  • お店の内外装は、自分で施工や造作できるところはする
  • 高額になる設備は代替案※でカバー

※例えば、当初は店舗正面にはガラス使う予定でしたが、専用のガラスになると高額になるため、半透明のトタンを使用し大幅にコストダウン

トレマタンブーランジェリーの店内

▲入口のトタンは波型形状のためか様々な方向から採光してくれる効果があり、照明は暗めなのに店内はとても明るい

設計会社を選ぶポイントは?

相談にしっかりのってくれる会社さんが良いと思います。単に工務店を選ぶのではなく、きちんと話を聞いてくれて、自分に合った提案をしてくれる設計士さん選びは大事だと感じました。自分に合った提案というのは、コストを下げるだけでなく、コストを下げても自分の理想のイメージから極端に外れない提案をしていただけることです。私の場合は、たまたま開業をした友達がいて、その店の開業準備の手伝いをしていた時に現在の店の設計士さんと出会いました。依頼をする前にどんな方かが分かっていたのは良かったですね。

自己資金以外にお金を借りるには?補助などは利用した?

私の場合は、自分で貯金した資金プラス、親から借りたのですが、それでも開業資金が足りず、日本政策金融公庫でも借りました。当時の話ですが、金融公庫の場合、女性で年齢が若いということで安い金利(普通の銀行の一般的な金利の半分くらい)でお金を借りられることができたのはとてもありがたかったです。補助金や助成金などは、調べればあったのかもしれませんが、当時はそんなことに気が回っておらず利用しませんでした。

開業して5年。運営して分かったこと、そして瀧さんの今後の目指すところは

2018年4月に開業をされ、2023年4月で丸5年を迎えられたトレマタンブーランジェリーさん。パン職人になってお店を運営することを目標にしてきた瀧さんが、実際にお店の運営をして感じたことを聞いてみました。

お店を運営して感じたことや改善されたことなどはありますか

商品面で言うと、最初は商品構成や商品のネーミングをつけるのにも格好をつけていたなと感じます。でもお客さんて正直ですよね。分かりづらいネーミングの商品にはなかなか手を出していただけないのです。それからは「お客さんが好む商品って何だろう」とか「こんなネーミングであれば分かりやすいかな」なんて考えるようになり、改良・改善をしていきました。

トレマタンブーランジェリーの商品

▲使われている素材が分かりやすい商品名、食べて欲しいタイミングなどが詳しく書かれたプライスカード

でも、私のなかで一番苦労したのは、労働環境ですね。最初は「バリバリ働くぞ!」という気持ちで、毎日製造をしていたのですが、そこにはどうしても無理することも多かったです。当時はまだ30代前半だったので良かったのですが、年を重ねるごとにそれがしんどく感じてきたことも事実。それはイコール従業員にも無理をさせていたということだと思います。実際に店を運営してみないとそこには気づけないですよね。

具体的に労働面で苦労されたこと、改善方法について教えてください

開業当初は、修行先のパン屋さんでの労働環境が普通だと思っていましたので、自分の店でも同じようにしていました。もちろんそれが間違っているとも思わないですが、いまは店ごとに柔軟な考えを持つ必要があるなと感じています。自分の店で例を挙げると、パン屋での修業経験がなかったり、まだ修行経験が浅かったりするスタッフは、パン屋での厳しい労働スタイルへの耐性がないんです。だからダメかというとそうではなく、皆さんやる気があって、厳しい条件のなかでも頑張ってくれるスタッフばかりだったので、結果的に皆さんに無理をさせてしまっていることに気付いたんです。でも、単純に仕事量を減らせば、商品の製造数も減ってしまうので、どうやって仕事の効率化をするかを考えました。それから、効率的に製造ができる製法を取り入れたり、分業していた作業を誰でもができるようにしたりしました。まだ満足できる状態ではないですが、現場では良い流れができたのではと感じています。

人を雇ってお店をながく続けていくには、「パン職人はこういうものだ」という固定概念は捨て、福利厚生や年金のこと、給料をアップさせることも検討するなど、個人店でもしっかりそこは考えないとダメなのだなと経営者として感じた5年でしたね。

トレマタンブーランジェリーの従業員の皆さん

▲とても仲が良い瀧さんとスタッフの皆さん。悩みや思っていることを言い合える仲であることが、この笑顔からもうかがえます

最後に、開業を目指すパン職人にメッセージをお願いします

自分の未来を楽しみにして、ぜひパン職人を続けてください。店の運営は決して楽ではないですが、そこには楽しみも沢山あります。その楽しみがあるからこそパン職人って楽しい、パン作りって楽しいと感じられると思います。そのわくわくする気持ちを捨てず、ぜひ自分の理想のお店を開いてください。

トレマタンブーランジェリー オーナー 瀧あゆみさん
取材を終えて

瀧さんはとても物腰が柔らかく、優しい口調でお話される方でした。ですが話を進めていくと、信念の強さをひしひしと感じる瞬間がありました。将来の夢を諦めることはとても勇気が必要です。でも今回の瀧さんのケースでは、夢を完全に諦めるのではなく、それを違う形で実現するとても良い例だったと思います。そして開業したことがゴールではなく、瀧さんの夢はその後も常に目標を持って進行形で続いています。瀧さんはお店の2軒隣にあるフレンチスタイルのカフェと共同で、移転リニューアルに向けて着々と準備されています。今後もパン職人の人生を楽しむ瀧さんの“あゆみ”がとても楽しみです。

 

●取材協力
Tôt le Matin Boulangerie(トレマタンブーランジェリー)
愛知県名東区一社 2-136 パークサイドマンション(2023年夏頃に同地区内に移転予定)
電話番号:052-717-5869
営業時間:09:00〜商品がなくなり次第終了
定休日:月・火
公式サイト:サイトはこちらから
公式インスタグラム:インスタグラムはこちらから

 

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chefno編集部
プロモーション担当兼エディター リョウ
chefno編集部
プロモーション担当兼エディター リョウ
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WEB業界に10年以上従事して、現在はchefno編集部のプロモーション担当をつとめる。コーヒーが大好き!コーヒーに合うパンとお菓子を編集作業の合間に食べるのが楽しみ。車があればどこにでも取材に行きます!
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